日本一の職人さんに会いに

 皆様いかがお過ごしでしょうか?平年では6月8日ごろが、関東梅雨入りだそうです。

梅雨の雨は作物にとって、とても必要だそうですが体調管理だけはご用心くださいね。


 前回は出雲大社を書かせて頂きましたが、本当は仕事で行った出雲。今回は「ちょっとまじめ」な工場見学を書かせて頂きます。

 出雲市へ前泊した私は、埼玉の西川チェーンの仲間と待ち合わせ繊維工場のダイワボウプログレス株式会社・出雲工場へ。


 出雲は明治から大正にかけて、繊維産業が盛んで、全国の8割は出雲で作られました。こちらの工場は大正9年に出雲製織株式会社として創立されたのが始まりで、数社の繊維会社が合併をして現在に至ります。日本の繊維工場の中でも、戦前より正に日本の繊維業界を支えてきた会社のひとつです.

 ダイワボウ出雲工場さんは、超有名ブランドのコートに使用する生地や服地を織られ、また都市上下水道の処理用の濾過布や電子・化学・塗料・食品などの産業分野に使用する数多くの様々なフィルター、医療に使う布、またトラックの荷台に掛けるシートからテントの帆布まで、あらゆる織物がこの工場で織られています。


 工場につくと、まず会議室へ。世界最軽量カバーを織り上げた織布課課長の西尾正之さんから、カバーを作るきっかけになったお話を伺います。4年前の事、定年間近の西川のカバーを担当する樋口部長が「羽毛専用のカバーって、沢山出ているけど、本当はどんなカバーが羽毛専用なのか?」のひと言から始まりました。

  樋口部長は「羽毛にあった柔らかいカバーは沢山ある。でも、羽毛の良さを最大限に引き出せるカバーは無いと部下の増田さんと何日も語り合ったそうです。そこで羽毛ふとんのことを考えた、軽量化と肌触りへの追求が始る事に。

 北から南まで日本中の紡績工場を駆けずり回りましたが、技術的に厳しいと断られ続けられます。そして1年近く経とうとしたその頃「最後はこの人しかいない!」その道ではベテランの職人さんに託そうと、東京から西に700㌔離れた出雲に向かいました。

  その西尾さんと言う職人さんは「私も定年が近い、最後の仕事として開発したい」と、奇跡的にそのチャレンジが始まりました。・・・ですが、世界最軽量を目指す糸が細すぎて、通常のカバー地を織る速度よりも速度を緩めますが途中で切れるなど、日本一の職人が幾度となく失敗を繰り返しながら、世界最軽量のカバーの試作品の第一歩が出来上がりました。

 普通のカバーが1日約70枚織れるのに対して、1日に僅か3枚分しか織れずかなり生産性の少ない織物となります。


 試作後も更にチャレンジが進み、現在では安定した生産となります。その世界最軽量にこだわった結果、とろけるような極上の肌触り、中身の羽毛がより生き生きと遊ぶので、羽毛に包み込まれる幸福感があります。普段何げに見ていたカバーですが、「カバーが出来上がるまでには、そんな苦労があったんだ!」と感動いたしました。


 工場を案内されると、「これ柔らかくて頼りないけど、本当に糸になるのかな?」と細くふにゃふにゃだった繊維が撚りを掛けられサラサラとしっかりとした糸になり、それが巨大きな糸巻きに巻かれて織機に掛けられて布になるまでの工程をじっくりと見学させていただきました。

 そして、西尾さんがとある場所へ・・・。そちらは工場内を走る山陰本線の線路を越え、車寄せがあるクラシカルな建物。「文化財になるんじゃないか?」と思うほど立派な玄関を入ると、広い応接室に通されました。大きな暖炉の横に紅い絨毯が敷かれ、厳かな御椅子が安置されています。


「戦後、昭和天皇が日本の復興に産業で協力してほしいとの願いで、日本全国を巡幸され、この出雲工場に昭22年1月30日に行幸された時にお掛けになられた御椅子です」と西尾さんが説明してくれました。「とても貴重な体験!すごいものを拝見した」と、滅多に経験が出来ない事に、背中がゾクゾクっと緊張したのを今でも覚えています。

「このカバー大切にいたします」と、西尾さんに挨拶をし出雲市にある東京西川チェーンの糸賀ふとん店さんへ。

 糸賀ふとん店さんの佐々木彰さんとは、東京で会議の時などお世話になっています。

 車から見える田畑と山の風景を進むと、「可愛い屋根だね」御伽の国に来たような屋根と建物が現れ、一歩店内に入るとゆったりとした空間で一瞬ふとん屋さんとは思えない、お洒落な雰囲気です。

 落ち着いた喫茶店ようなカウンターや、広々と使いやすいトイレなど、随所に佐々木さんのこだわりが伺えます。すると、奥様手作りのケーキが出され、「どこのケーキ屋さんの?」と思うくらい、とても美味しい。聞くと奥様は毎日お菓子を作られ、お客様に出されるそうです。「それはすごい、最高のおもてなしだな」と、感動いたしました。きっと居心地が良いから毎日沢山のお客様がいらっしゃるのでしょうね。

 日本を支えた出雲の紡績。その究極のカバー作りを求めた職人魂。そして穏やかで心温まるふとん屋さん。「出雲には優しい時間が流れているのだな」と素敵な一日を過ごしました。風光明媚な日御碕はまたいつか書かせていただきます。


※平成30年6月1日発行のニューズレターです。

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